都市農業に関係する情報の整備
(平成25年度「農」のある暮らしづくり交付金事業)
1.はじめに
都市農地や農業が持つ魅力、提供される便益については「都市農業の振興に関する検討会」の中間とりまとめ(都市農業の振興に関する検討会、平成24年8月)をもとに、次のように整理できる。
■ 図表1都市農地の存在意義と便益
存在意義 |
便益 |
対象者 |
|
食料生産 |
地産地消 |
・安心、安全な農産物の供給、消費 |
・周辺住民 (市街化区域内外) |
農業体験 (多面的機能) |
・余暇等の有効活用 ・教育、福祉的貢献 ・コミュニティ形成 ・雇用の場の形成 |
・周辺住民 (学童、高齢者、就業希望者等) |
|
土地の活用 |
防災空間 |
・火災延焼防止 ・避難場所等の確保 ・浸水防止 |
・周辺住民 ・避難民 |
景観形成 |
・緑地空間等が生活 にやすらぎや潤いをもたらす。 |
・周辺住民 |
|
国土・環境保全 |
・ヒートアイランド 現象緩和 ・生物多様性の確保 |
・周辺住民 ・動植物 |
|
その他 |
・農業理解の促進 |
・農家 ・周辺住民 |
こうした魅力を持つ一方で、都市農業は内的制約(後継者不足、低い利益率等)や外的制約(農家にとって負担の大きい税制度、農地賃貸借の抑制等)により農地保全を断念せざるを得ない状況に追い込まれつつある。
都市農業を保護することは、農業者のみならず、周辺住民や行政にとっても多大な利益につながるものである。一方で、先述の中間報告で指摘されているように、都市農業の保護にあたっては、住民に対して「応益的共同負担」を求める形も検討される。そのため、都市農業によって得られる便益については受益者ごとに整理するとともに、そうした便益を生み出すための条件整理にあっても、現状の課題ごとの要因分析等、丁寧なデータの整理が肝要であり、それが求められている。
以上の認識に基づき、当社では農林水産省が実施している、平成25年度「農」のある暮らしづくり交付金(「農」のある暮らしづくり支援対策)を活用し、都市農地に関連するデータを収集・整備した上で、本ホームページ上で公開することとした。
2.データベースの概要
(1)データの内容
本調査では、都市農業を「市街化区域内及び周辺の農業」と捉え、「市街化区域内の農業集落」を調査の対象とし、農業集落単位でデータを収集・整備している。データの収集にあたっては、農林業センサスを活用している。農林業センサスは農林業経営体調査と農山村地域調査から全国の約11万農業集落単位にデータを編集したものであり、農家数、経営耕地面積、販売金額等に関する情報が取得可能である。
「都市農業の振興に関する検討会」において紹介されているように、農地は生産以外にも多面的な役割を果たしている。そこで、本事業においては、全国の市街化区域内農業集落における「貸農園・体験農園等」や「農家民宿」の実施状況についても整理している。
■
図表2 データ収集項目
集計項目 |
属性 |
世界農林業センサス 2010 |
農林業センサス 2005 |
総農家数 |
|
○ |
○ |
販売農家数 |
|
○ |
○ |
自給的農家数 |
|
○ |
○ |
農業経営体数 |
|
○ |
○ |
経営耕地面積 |
総農家 |
○ |
○ |
経営耕地面積 |
農業経営体 |
○ |
○ |
販売農家 |
○ |
○ |
|
経営耕地面積(田) |
農業経営体 |
○ |
○ |
販売農家 |
○ |
○ |
|
経営耕地面積(畑) |
農業経営体 |
○ |
○ |
販売農家 |
○ |
○ |
|
経営耕地面積(樹園地) |
農業経営体 |
○ |
○ |
販売農家 |
○ |
○ |
|
耕作放棄地面積 |
世帯 |
○ |
○ |
販売金額 |
農業経営体 |
○ |
○ |
販売農家 |
○ |
○ |
|
直接販売 |
農業経営体 |
○ |
○ |
販売農家 |
○ |
○ |
|
貸農園・体験農園等 |
農業経営体 |
○ |
○ |
販売農家 |
○ |
○ |
|
観光農園 |
農業経営体 |
○ |
○ |
販売農家 |
○ |
○ |
|
農家民宿 |
農業経営体 |
○ |
○ |
販売農家 |
○ |
○ |
|
農家レストラン |
農業経営体 |
○ |
○ |
販売農家 |
○ |
○ |
|
雇用者数 |
農業経営体 |
○ |
○ |
販売農家 |
○ |
○ |
|
農業従事者数 |
販売農家 |
○ |
○ |
農業就業人口 |
販売農家 |
○ |
○ |
平均年齢(経営者) |
販売農家 |
○ |
○ |
平均年齢(農業従事者) |
販売農家 |
○ |
○ |
平均年齢(農業就業人口) |
販売農家 |
○ |
○ |
平均年齢(経営者) |
販売農家 |
○ |
○ |
DID人口集中地区との重複の有無 |
平成17年、国土数値情報 |
||
公共施設数 |
平成18年、国土数値情報 |
(2)市街化区域内農地の推計方法
本調査では都市農地を「市街化区域内及び周辺の農地」と定義しているが、市街化区域の線引きと農業集落の線引きは一致しないため、GISソフトを活用し、農業集落ごとに面積按分(市街化区域内面積/全体面積)を行い、その比率から市街化区域内の農地面積を推定している。
例えば、全体面積が1,000aで、そのうち600a、すなわち60%が市街化区域内に属する農業集落があったとする。その農業集落に経営耕地が20aある場合、20a×60%=12aの経営耕地が市街化区域に属すると推定する。農家数についても同様の処理を行い、同集落に全体で10戸の農家が働いている場合は、市街化区域内には10戸×60%の6戸働いていると推定する。
(3)欠損値等の取り扱い
元データとなる農林業センサスの中で非公表(X表記)であったり、欠損(N/A表記)していたりするデータについては、以下の通り対応した。
「−」の扱いについて
農林業センサスでは、事実のないものは「−」と表示される。このような場合、0を数値として代入した。
「×」の扱いについて
農林業センサスでは、経営体が少ないため公表できないものは「×」と表示される。このような場合、×をのぞいた合計値を算出し、それぞれの経営体(総農家、農業経営体、販売農家)で割り経営体あたりの平均を求める。その平均値に基づき、×の箇所に経営体をかけ、推定値を算出した。
「N/A」の扱いについて
農林業センサスでは、欠損しているデータは「N/A」と表示される。2010年は該当集落が少ないため、集計からは除外した。一方、2005年は「N/A」が多数あるため、データベースの整備のみを行い、集計作業は断念した。
耕作放棄地の計算方法について
耕作放棄地面積は総農家耕作放棄地面積の×を上記の×の扱いについての計算方法で算出し、土地持ち非農家の面積と合算した。
販売金額について
経営体ごとに販売金額を乗算する。その際販売金額は中位数をかけている。例外として班売額なしは0を50万円未満は25をかけている。5億円以上は5億円として計算した。また、販売金額の×の求め方は経営体数に販売金額の中位数をかけたものに対して上記の×の扱いについての計算方法を利用した。
(4)データベースの公開
データベースの公開にあたっては、全国集計だけではなく地域ごとの傾向が把握できるように、以下の通り地方農政局の管轄を基準とした地方ブロックを設定し、ブロック別に整理している。また、データベースは以下3つのシートで構成されている。
@ 農林業センサスの非公表、欠損データ等を補完する前の「元データ」
A 上記@の非公表、欠損データ等を補完した「按分前」
B 上記Aのデータを面積按分(市街化区域内面積/全体面積)した「按分後」
■
図表3 ブロック別都道府県
ブロック |
都道府県 |
北海道 |
|
青森県、岩手県、宮城県、秋田県、山形県、福島県 |
|
茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、山梨県、長野県、静岡県 |
|
新潟県、富山県、石川県、福井県 |
|
岐阜県、愛知県、三重県 |
|
滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県、和歌山県 |
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鳥取県、島根県、岡山県、広島県、山口県、徳島県、香川県、愛媛県、高知県 |
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福岡県、佐賀県、長崎県、熊本県、大分県、宮崎県、鹿児島県 |
ブロック名をクリックすることで、エクセル形式のデータベースをダウンロード可能である。